31人が本棚に入れています
本棚に追加
「侯爵がなかなか迎えに来ないのを訝しんで、マリーさんは隠し持っていた手鏡を使った。すると、どうやら今、侯爵の部屋にはメリッサがいるらしいことが分かる。……多分、侯爵はその場で、メリッサに本当のことを告げてしまう。そうなれば、メリッサと侯爵は晴れて結ばれる。……おそらく、ほんの気の迷いだったのでしょう。『昨日のこと』と聞こえた瞬間、マリーさんは〈人魚の歌〉を歌って、彼の動きを止めた。……その言葉を、言わせたくなかったのでしょう。そして、すぐに我に返って、歌をやめた。……しかしその時にはもう、全ては遅かった。
侯爵はその間に、殺されてしまった――」
イマジカは、小さくため息をついて続ける。
「拘留された彼女のもとを訪ねたとき、彼女は恐らく、何かを言いかけて、やめました。あの時、私たちにそれを全て打ち明けようと思ったのでしょう。でも結局、そうはしなかった。……彼女は、恐れていたんです。彼女は、違法な呪具を所持していました。それに、そんなつもりは無かったとはいえ、自分が、侯爵殺しの片棒を担ってしまったことについて、何らかの処罰が下ってしまうのではないかと……」
確かにあの時、マリーは何かを言いかけていたように見えた。
でも、だったら……
「お前があいつを見逃したら、思うつぼじゃないか」
「ええ、そうですね……」
彼女は、王女の正面の椅子に、身体を小さくして座っていた。
ああ……、だからこそ、イマジカはあれから、落ち込んでいたのだろう。
(――正しいことだと思っての行動ではない、ってことか)
じゃあ、何のために……?
――いや、それは、さっき王女が言っていた。『私のために』と。
最初のコメントを投稿しよう!