16 人魚の歌声

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 マリーが違法呪具を所持していて、彼女にそんなつもりはなかったかもしれないが、少なくとも、彼女の歌がディーン侯爵の死の一因となったことは紛れもない事実だろう。  ――それを、ヴィスタリア公爵が知ったとしたらどうなる?    ……それは、そうなってみないとわからない。  だが、イマジカはきっと、こう考えたのだろう。  もし、それが原因で、ヴィスタリア公爵が亜人を憎むようになったら、と。  そうなれば公爵は、王女との協力関係を解消するだろう。  公爵は今や、王女派の筆頭だ。そんなことになったら、王女派は大きな打撃を受ける。  そして、王女が推し進める「亜人差別の撤廃」については、完全にとん挫することになるだろう。  ――万が一にもそんなことにならないために、イマジカはマリーを見逃したのだ。 (……イマジカ……お前は本当に、『王女のための探偵』なんだな……)  そこで、王女が立ち上がって、イマジカに手を差し出した。  そして、その美貌の笑みと共に、こう言った。 「イマジカ、踊りましょう」  イマジカは逡巡するが――、 「喜んで」  立ち上がり、その手を取ってキスをする。  そして二人は、ゆっくりと、互いに身を寄せ、離して、また寄せて――、時には廻って――  二人は、踊り始めた。 (あぁ……、なるほどね)  俺はそれを見て、ようやく理解した。  ――探偵は、王女と踊る。     
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