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「なっ……!? 私よりもちょっと速いからって調子に乗って……!」
「事実だからしょうがないだろ!」
む、むきーーーっ! とかなんとかやってる間に、目的の館の門が見えてきた。
「夜の稽古で、ぜったいギャフンと言わせてあげますから……!」
「はっ、できるもんなら」
自分のせいで遅れているのにこの不遜な態度、そしてこの余裕……!
(ぜ、絶対に後悔させてやる……!)
と心中で息巻いて、せめてもう一言何か言ってやろうと口を開きかけたとき、
「おっと……」
私たちが門を走り抜けるのとほぼ同時に、横合いから一人の女性が走ってきて、セニスにぶつかりかけた。
セニスがなんとか止まって衝突は免れたが、女性は何も言わず、そのまま門の外に走り去って行く。
私たちは振り返って、その後姿に目を向けた。
身に着けた質のいい服からすると、この屋敷の使用人というわけではないみたいだけど……。
それ以上に気になったのは、
「……泣いてたよな?」
「ええ……」
そうだ。ぶつかりかけた際、驚きに一瞬顔を上げた彼女は、確かに泣いていた。
「なんだったんだ……」
「さあ……」
私たちが揃って首をひねっていると、その背中に声がかかる。
「お二人とも、お待ちしておりました」
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