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振り向けば、館の家令である老紳士がいた。
「ささ、場所は館の近くにある火葬場です。が、その前に……」
彼は、私たち――特にセニス――の姿を上から下まで眺めて、続ける。
「お二人は少しお召し物が汚れていらっしゃいますから、まずは館でお着替えになったほうが宜しいでしょう」
口調は柔らかだが、目が笑っていない。
……まあ、当然だよね。
「あ、はい……」
「す、すぐに支度します……」
私たちは、急いで館に向かった。
途中、一瞬後ろを振り向いたけれど、そのときにはもう、あの女性の姿は見えなくなっていた。
* * *
館で襟の詰まった綺麗な服に着替えた後、家令に急かされつつ連れられたのは、先ほど彼が言っていた通り、館の近くにある火葬場だった。
火葬場といっても、基本的には大きな穴が掘られているだけの場所だ。
そこに死者の柩が並べられて、その上に薪などの燃料がくべられている。
すぐ近くでは大きな焚き火がなされていて、火葬が始まると、司祭、領主、親族親類、その他参列者の順で、その火を小さな木の棒に移して、大穴の中に投げ入れていくのだ。
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