4 火葬の理由

5/8
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
 公爵の紹介に、人々は「あの呪術師を捕らえたのか」とか「お母さんもこれで安心していける……」とか「ありがたや……」とか呟きながら、とりあえずは総じて好意的な視線を向けてくれる。 「本来であれば司祭の次は領主である私が火をくべるのだが、今回はその前に、この二人から、火をくべてもらおうと思う。異論はあるかな?」  当然、というように、反対の声は上がらない。  まあ、領主相手にそんな声があげられるはずもないんだけど、恐らくは心から了承してくれているのだろうことが、彼らの表情からわかった。 「――うむ。では、火葬をはじめよう」  公爵はそう言うと、司祭に目配(めくば)せする。司祭はゆるやかに頷き、赤々と燃える焚き火の中に、近くに並べられた木の棒から手ごろなものを手にとって火を移し、小さく祈りを捧げたあと、大穴にその木の棒を放る。そして、角盥(つのたらい)の油を(さじ)で掬って、大穴に撒く。  大穴には最初からある程度油が()かれているので、木の棒の火はすぐに、大穴に燃え広がっていった。 「さあ、二人にもお願いしたい」  公爵が、私たちに次の火くべ役を促す。  本来であれば公爵の前に火をくべるなど恐れ多いが、他ならぬ公爵自身がそういうのだから、断る理由もないだろう。 「では、失礼します」  私たちは、司祭に習い、大穴に火をくべた。  更に勢いを増した大穴の炎がじんわりと肌を焼く。     
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!