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魔力を身に宿す者たちがその魔力を失うのは、その依り代である肉体を失ったときだ。
はるか昔、この国では土葬が主流だったという。しかし今は、宗教的理由ですらなく、法で火葬が義務付けられている。
それは、体内に魔力を多く持つ人間の死体は、稀にアンデットとなり、生きとし生ける者を襲うようになるという事情による。
(それが人間以外の動物であれば、魔物となる。)
それを避けるためには、肉体から魔力を開放してやらなければならない。
そのための効率的な方法が、火で肉体を燃やし尽くすことなのだ。
大穴では侯爵が火をくべ終え、親族たちに順番がまわっていた。
ここからは、一人ずつの投げ入れではなくなる。
多くの火種が一斉に投げ入れられ、大穴の火は更に大きくなる。
火をくべ、泣き崩れる者。その場に立ち尽くす者。唇を噛みながら戻っていく者。別れの言葉が告げられず、火を投げ入れられない者……。
大穴の周りには、大切な人の不条理な死を前に打ちのめされる人々の、悲痛な姿があった。
そんな彼らを、青い光が、やさしく照らしている。
「綺麗ですね」
「……そうだな」
セニスは顔を背けているかと思ったが、その光景をまっすぐに見つめていた。
今日この式に参加するのは、本当は少し心配だった。
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