4 火葬の理由

7/8
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
 魔力を身に宿す者たちがその魔力を失うのは、その依り代である肉体を失ったときだ。  はるか昔、この国では土葬が主流だったという。しかし今は、宗教的理由ですらなく、法で火葬が義務付けられている。  それは、体内に魔力を多く持つ人間の死体は、稀にアンデットとなり、生きとし生ける者を襲うようになるという事情による。 (それが人間以外の動物であれば、魔物となる。)  それを避けるためには、肉体から魔力を開放してやらなければならない。  そのための効率的な方法が、火で肉体を燃やし尽くすことなのだ。  大穴では侯爵が火をくべ終え、親族たちに順番がまわっていた。  ここからは、一人ずつの投げ入れではなくなる。  多くの火種が一斉に投げ入れられ、大穴の火は更に大きくなる。  火をくべ、泣き崩れる者。その場に立ち尽くす者。唇を噛みながら戻っていく者。別れの言葉が告げられず、火を投げ入れられない者……。  大穴の周りには、大切な人の不条理な死を前に打ちのめされる人々の、悲痛な姿があった。  そんな彼らを、青い光が、やさしく照らしている。 「綺麗ですね」 「……そうだな」  セニスは顔を背けているかと思ったが、その光景をまっすぐに見つめていた。  今日この式に参加するのは、本当は少し心配だった。     
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!