5 月夜の特訓

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 ということは、少なくとも今彼が言ったことは、事実なのだろう。  ――セニスが私の助手になって約半年。  助手となった彼にまずはじめに私がお願いしたのが、毎晩三本の訓練に付き合って貰うことだった。  それからほとんど毎日、私はこうやって、セニスに実践訓練という名の稽古をつけて貰っている。  私だって、王女の探偵になるにあたって相応の訓練はしてきたつもりだったし、実際、セニスに出会うまでは、少なくとも一対一での戦いにおいて形勢が不利になるようなことはなかった。  だが、セニスの力は、そんな私の浅はかな自尊心を簡単に踏み砕いた。  辺境伯領のとある宿で戦ったときは、(から)め手によってなんとかセニスを捕らえる事ができたけれど、あんなものは勝ちのうちには入らない。  事実、彼とのこの半年間の手合わせにおいて、私が彼に実力で勝利を掴んだことは、たったの一度もない。  自身の成長のためにと始めたこの訓練だったのだが、半年ほどもそんな状況が続けば、本当に成長できているのか流石に不安を覚えていた。  だけど今日、まだ勝つまでには至らなくとも、少なくとも彼にひやっとさせるくらいのところまでは迫ることができたらしい。 (私の才能も、まだ頭打ちってわけではないのかな……)     
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