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1 薄暗い路地
どこかで、誰かが歌っていた。
それはまるで、賛美歌のようでも、あるいは鎮魂歌のようでもある、不思議な歌だった。
失われた魂たちは、その歌によって慰められたのか。
あるいは、その歌によってこそ失われたのか。
侯爵とその花嫁候補のうちの二人は一体、誰に、どうやって殺されたのか。
そしてその問いの答えに、探偵は果たして、たどり着くことができるのか……。
彼らの死体を前に、ある者は咽び泣き、ある者は頽れ、またある者は臍を噛んだ。
血溜まりの上で死体は一様に、薬指を切り落とされ、首を吊られていた。
誰かの叫びに、赤い水面が小さく波打っていた――。
* * *
羊皮紙に、手を翳す――。
すると手元で、仄かな燐光とともに、何も描かれていない羊皮紙に、独りでに文字が浮かび上がり始める。
「すごい、これが……」
その様子を見ていた兵士たちは一様に、驚きに目を見開いていた。
――薄暗い路地の奥の奥。
どこからか漂う生臭い臭いや刺激臭に自然と表情が歪む、ゴミの掃き溜めのような場所。
そこで私は、自身の右目に宿る特異体質――、〈真実の眼〉を使用していた。
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