消えた指輪

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消えた指輪

「ほんまいかいな、この話……」  くりっとしたオーシャンブルーの瞳が、本から上げられた。  開け放たれた正面の窓からは、鳥のさえずりが聞こえ。  水色のストレート髪が、風に揺れる。  頬杖をつく、少女の両脇には、何冊も本が積み上げられていた。  ダレンシア王国の王女、ナジョラ ストレイカー、12歳。  お姫様は気軽に外出など、そうそう出来ない。  ということで、城でじっとすることの多い、ナジョラの趣味は読書。  ハードカーバーの古い本を、パタンと閉じ。  ナジョラはさっと立ち上がった。 「……返してこよ~~」  暖かい春の日差しが差し込む、城の廊下を。  スタスタ歩いてゆく、ナジョラの服装は。  深い海のようなブルーのドレスに、パステルピンクの低めのヒール。  大理石の床の上を、慣れた感じで進んでゆく。  さっき読み終えた本を、顔の前に掲げて。  心の中で、ぶつぶつ言い出した。 (あない簡単に、悪が広まるんかいな?  だいたい、人傷つけて、何がオモロいんやろか?)  重厚な扉の前でぴたっと止まり、両手で強く押し開けた。  ギーギーっと軋む音が、薄暗い空間に響く。  ナジョラは開けっ放しにして、中へ入った。  そこは、ダンスパーティなどが行われる、城で一番広い広間。  明日、13歳を迎えるナジョラの、誕生日パーティが開かれる場所でもある。  カツーンカツーンと、ヒールの音を響かせながら、部屋の奥へと進んでゆく。 (何や?  最後の力、振り絞うて。  道具に、エネルギー込めた……?  指輪に杖、腕輪、ロザリオ、ローブ……やったか?)  明日の今頃、座っているだろう席へ近づいてゆく。  深紅の絨毯(じゅうたん)の上に鎮座する立派な椅子。  その隣りには、ガラス張りのショーケースがあり。  ブラッドストーンという、世界に一つしかない宝石を使った、指輪が飾ってあった。  うさんくさそうに、ナジョラはのぞき込み、 「その指輪が、これやなんて、出来すぎちゃう?」  シーンとした、薄暗い広間をぐるっと見渡して、 「全然、ぞーっとせぇへんやんか……」  持っていた本に向かって、 「もうちょっと、ましな書き方はなかったんかいな!」
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