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 一万円札に埋もれながら、寿々香はあの日のことを思い出していた。  風呂上がりで髪を乾かしていると、同居している結莉が血相を変えて駆け寄ってきたのが鏡越しにわかった。何かを叫んでいるが、旧型のドライヤーの音が大きすぎて声は聞こえない。その手に宝くじが握られていることに気づくのと、ドライヤーのスイッチを切るのはほぼ同時だった。 「当たってるよ!」結莉の声が響く。  当選番号が表示されているホームページを寿々香も見てみる。  あれ?  同じだ。  何度見ても。  同じものが書いてある。  手元にある紙とホームページに、同じ数字が並んでいた。 「同じじゃん!」  感情のリミッターが外れた寿々香は、客観的なことを叫んでいた。  あの時もジャンプしたり結莉と抱き合ったり、ひとしきり喜びを爆発させた後、今みたいに大の字になって寝ころんだな、と寿々香は振り返った。 「どうする? やっぱり家かな」  いつの間にか横で添い寝している結莉が問いかける。 「そう……だね。マンションでも買う?」同意する寿々香だったが、歯切れが悪い。 「なに。はっきりしないなんて珍しい」 「だって」周りにあった一万円札を可能な限り鷲掴みにすると、空中にまき散らしながら寿々香は言った。「こんなお金、どうしたらいいかわかんないんだもん!」  だよね、と言いながら結莉がまた笑った。寿々香が珍しく子供っぽく振る舞っていることが面白いらしい。 「とりあえず、バイトやめない? アイドル活動に集中しようよ」 「結莉にしてはまともなこと言うじゃない」隣にあった頭を小突きながら寿々香が言った。「同意します」  あとは化粧品を買ったり、洋服を買ったり、仕事に必要なものをこのお金で揃えていこうか、などと現実的な妄想を膨らませていると、隣のお腹が鳴った。 「それにも同意です」  もう、と言いながら結莉が先に体を起こすと、寿々香に手を差し伸べて引っ張り上げた。
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