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どんなにグルグル悩んだところで、結局のところ私が考えているのは『飛びたい』ただそれだけ。
決して叶うはずのない願望。有り得ない夢。
懲りずに3回目のため息をつこうとしたときだった。
何かが落ち葉を踏みしめる音がした。
その音が耳に届いた瞬間に硬直した。自分以外には人間も、大型動物も入ってこないこの場所で、落ちた枝が折られる音なんて聞こえない。しかし、足音は近づいてくる。有り得ない。でも、確かにいる。
後方から息を呑む音が聞こえた。同時に足音が止まった。せせらぎと森を吹き抜ける風の音だけが聞こえていた。
きっと相手もこんな場所に何かいるとは思っていなかったのだろう。しかもそこにいたのは片翼の天使。驚くなというほうが無理がある。思わず足を止めてしまうのも当然だ。
音のしないまま、数秒にも数十分にも思える時間が過ぎた。そのうち、さっきまでの音は空耳だったんじゃないかと思って後ろを振り返ろうとした。
固まった身体を無理矢理ひねろうとしたとき。
「見るな」
と、声がした。後方から。それを聞いて、私はまた固まった。
その声はあまりに低く、腹に響く地鳴りのような声だった。聞くものを恐怖で拘束するような。
「ここ、座っていいか?」
「え……」
口からこぼれたのはそんな音だった。久しぶりに聞いた自分の声は思ったより高くて震えている。
姿の見えない相手を怖がっている私に、断る勇気はないから了承した。
「はい」
と言ったのだけれど、ずっと話すことのなかった私の声は小さすぎて届かなかった。代わりに首を縦に振りまくる。
再び落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。一際大きな音がして、彼が座ったのがわかった。すぐ後ろにいるらしい。
頭の中にはハテナマークが飛び交っているけれど、私にはどうすることも出来ない。得体の知れない誰かがいる恐怖と、何故ここにいるのかという疑問と、私の姿を見ても逃げ出さなかったという期待が混ざりあった。
恐怖で凍りついていたのもあるけれど、その期待が私をこの場所に留めていた。
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