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予想外の言葉が聞こえた。
もちろん、わずかでも可能性があるなら望みは捨てないけれど、『してくれる』とはどういうことだろう。まるで私が飛ぶことが相手のメリットのようだ。でも。
「……出来る限り」
答えると、後ろから唾を飲む音がした。
何かを決意したらしい彼は、一呼吸の間をおいて言った。
「ゆっくり、振り向いてくれ。左から」
その方向指定に違和感を覚えながら、言われたとおりに後ろを見る。
まず見えたのは腕。この時点で怪物の類でないことが分かる。密かに安心しながら、ゆっくりと振り向き続ける。
続いて見えたのは、耳元まで大きく裂けた口と、ギラついた牙。思わず鋭く息を吸い込む。
完全に振り返ると、そこには漆黒の翼を持った者がいた。
彼の正体は、片翼を失った悪魔だった。
事実の理解と同時に思わず後ずさる。私の顔には恐怖の色が浮かんでいることだろう。表情を見て、彼は苦しそうに顔を歪めた。
「無茶だって分かってる。でも、俺だって飛びたいんだ! ……力を貸してくれないか?」
確かにさっきまで聞いていた声がする。でも、とても信じられない。彼の正体より、彼の言動が。
悪魔は本質的に騙すことに長けているのだ。今までの言葉がすべて嘘で、片翼に見えるのは幻覚だという可能性も捨てきれない。
……だけど、彼の瞳を見てなお、そんなことは言えない。
「……わかった」
了承すると、彼はとても悪魔には見えない微笑みを見せた。良心が痛む。
「でも、どうするの?」
「考えがあるんだ」
と、彼は即答した。
その後、彼の説明を聞き、私はまた決断を迫られた。
悪魔の彼の発言に賭けるかどうか。
でも、このまま地を這うよりも、彼の右翼と私の左翼に賭けることを誓った。
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