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彼との出会いから数カ月がたち、いよいよ決行の日がやってきた。
彼とともに野原へ出る。空は青く澄み渡り、風は追い風。今日、大空へ飛び出せたならこんなに気持ちの良いことはないだろう。
「いくよ」
いつの間にか心地よくなった低音に頷き、前を見据える。
互いに肩を組む。
「1」
私たちは同じタイミングで走り始める。スピードは練習の中で合ってきた。
「2」
彼は右翼を、私は左翼を目一杯に広げる。
「3!」
翼を羽ばたかせる。両の翼が全く同時に空気を押すよう、タイミングを揃えながら。すると足が地面を離れる。でも油断してはいけない。この前はここで盛大に一回転したのだ。
呼吸を、翼を。合わせて、揃えて。
そのうち、森がずっと小さく見えてきた。半世紀以上の時をかけて、ようやく私はあの森から脱出したのだ。
遠くには私の知らない街も見える。思わず笑みがこぼれた。
きっと、このままどこまでも行ける。
彼と顔を見合わせ、頷くと、また一段と強く翼をはためかせた。
青空の中を、白と黒の翼が楽しげに駆けていった。
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