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その瞬間、胸のつかえがとれたように、南洋の島での言い訳をうまくしたように、Oは晴れやかに笑った。全ての釈明は、その一言をもって、つつがなくなされた。あの日に勝るとも劣らない笑み。
彼は残っていたコーラを飲み干して、立ち上がる。
「滝沢さん、いや、中尉。ずっとお礼が言いたかった。船の順番を都合してくれて、ありがとう」
男を迎合する事に、家に帰りたいという理由以上はない。奥さん、という言葉には、愛おしさ以上のものが含まれていた。たとえば、目的のようなもの。
その野生のような敏い目で全てを見抜いていた。自分に必要なもの。男たちが必要としていたもの。
生き残るために選択した彼らは、見返りに確かにOにそれを与えてくれた。
ひょっとしたらひと時、彼らに愛情を感じたかもしれないが、それは感情であって、目的にはならない。
そして、昔も、今も、滝沢は必要とされていなかった。事実は痛みとなって突き刺さる。Oは一度も滝沢に助けを求めなかった。
生き残ろうと決め、実際の過程で滝沢は必要なかったのだ。
Oはただ茫然とする滝沢の肩に手を置き、二回、軽く叩いた。少しのやさしさ、あわれみ、そんなところを去り際に置いて。
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