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 よく冷えたグラスに水滴が浮かんではたれ、持つ手はすでに濡れていた。  Oはコーラを飲み、滝沢はいまだにそれを好きになれない。チョコレートもだ。うまいうまいと飲むOに、滝沢はなんともいえない思いを抱く。  最初に話題に上ったのは、戦後、内地に引き上げてから工員仲間の誰に会ったとか、仕事はなにをしているのかとか、適当な世間話だった。  いつの間にか、彼は眼鏡をかけていた。指摘すると、やや乱暴に外し、脇へ追いやる。ぞんざいな扱いに、物心ついた時から眼鏡が身体の一部となっていた滝沢は苦笑した。 「眼鏡、初心者だね」 「仕事中だけ。後はかけてないよ」 「老眼?」  にやりと笑った顔は、涙が滲むほどなつかしかった。
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