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「うん、でも、ふつう、童貞だなんて嘘つかないだろ。すぐにこの島に来たから、機会がなかったって言ってた。あいつ、頭は悪くないんだけど、要領が悪いんだよ。うまくやれないんだ。すぐ漏らしちゃうし、ずっと下っ端だし、すぐ死にそうなんだもん」  からかいを半分にして、あの海兵隊員のことを気にかけているような口ぶりだった。  お前が筆下ろししてやったのか。盗み聞きしていたわけではないが、猥談のくせに、彼らの声はでかい。童貞だったことよりも、雑談のネタにされている方に同情した。  聞いていた工員仲間は、面白半分、口々に言いたいことを言っていた。 「おい、ちゃんと女とやるときのことも考えて、教えてやれよ。実際に入れる穴を間違えて、怒られなんてしてみろ、一生心に傷が残るからな」  Oはこういう話が好きなのだと思う。卑猥な言葉で応じて、ニタニタ笑っている。  だが、ほんの少し痛みを含んでいる。敵を知ることは辛い。彼らもまた、人間であったことを知ってしまうから。
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