2/29
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
 Oは滝沢の部下だった。  軍事基地をつくるために募集されたか、徴用された工員の一人だ。  飢えからくる絶望の漂う戦争末期に、滝沢たちはまだ南洋の島で要塞をつくっていた。もうすぐ戦争は負けるが、当時は知る由もなかった。  援軍どころか、米軍もオーストラリア軍も来ない。彼らは悪戯のように空爆するだけだった。誰もが素通りして行ってしまう。  見捨てられた島で、補給もないまま、ひたすら穴を掘っていた。食料はいつも不足していて、誰もが腹を空かせていたのに、兵士にばかり食料はいって、工員の分はつねに減らされていた。 その兵士だって飢えていたのだから、工員のそれはもういいようもないほどひどい。イモを育てれば虫に食い荒らされ、魚を取ろうにも手榴弾は十分に回ってこない。栄養失調の兵士や工員を診すぎて、軍医殿が精神疲労で死んでしまいそうだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!