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 滝沢はOの顔を盗み見た。すぐにばれて、目が合うと、目元に優しくしわが寄った。  すでにあの島でのことは、Oにとって過去のものとなったのだろう。それは滝沢にとっても同じだ。時折悪夢となって苦しめるけど、それでも今起こっていることではない。やり過ごせば、波のように引いていく。時をおかずして、また押し寄せるものであっても。  そして、苦しい思い出と共に、滝沢は情念の痛みを覚えた。真空を少し燻るような。  落ち着かせるように、タバコに手を伸ばす。  思い出話に花を咲かせる前に、Oを呼び止めたときから、気が付いていた。 ――もう、後藤も海兵隊員もいない。  死ぬか、自国に戻るかして、永遠にOの元から去って行った。それは、滝沢の待ち望んでいたことでもあった。  滝沢はOが欲しかったのだ。おそらくあの南洋の時代、欲しくて欲しくてたまらなかったのだろうと思う。  当時はあまりにも疲れすぎていた。後藤が死んだときなにも感じなかったのも、英文を読めないと断ったのも、無意識だった。
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