Ｏ

「そういえば、たばこを吸わないんだったな」

　彼への遠慮から、一応、断りは入れた。吸うのだけれど。
　明るい見通しは、頭の中に溢れる。今なら、ひょっとしたらOはこちらに視線を向けるかもしれない。滝沢があの時、欲しいと思っていたもの。視線――飢えてみじめな自分たちでさえ、必要とされていると錯覚するような。

　Oは頷き、火をつけることを許したが、答えは希望を突き離した。

「うん――奥さんが嫌がるからね」

　えっ、と聞き取れなかった単語を聞き返すように、滝沢は目を丸くした。
　滝沢は今まで、彼が既婚者だなんて考えたこともなかった。独り者なのだと勝手に決め込んでいた。