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 ぼんやりと光る輪郭に気が付いた。後藤が空爆で死んだ後だった。  終戦近くで、Oは泣くでも悲しがるでもなく、一時は良人として振舞っていた後藤を機械的に埋めた。数名の手をかり、ふらふらになりながら埋める姿から、感情を読み取ることはできない。何か考えるには疲れていたからだ。  遺体には毛布すらかけてやれないのに、死はありふれていたので、無感動になっていたのかもしれない。  再びOの身を案じたが、すぐに終戦と米軍がやってきて、滝沢たちを捕虜にしてしまった。もはや違法性を論じるには、将校を含め疲れすぎていた。自決するのにも、戦争は終わってしまっているし、滝沢を除いて、部下の工員である彼らは兵士ではなかった。  それからは戦後捕虜として使役される日々が来るが、目的を思い描けない労働から解放されるわけではなかった。  まもなく海兵隊の男が滝沢のもとへやってきて、言った。 「“He’s hungry, I guess.”」
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