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 早く家に帰ろうとして、人が溢れる銀座の大通りから、駅に向かう空いた小道へ足を踏み入れた。  Oと再会したのは、そうした夏の土曜の午後だった。  実をいうと、最初に気が付いたのは相手の方で、滝沢が顔を上げると、そこにはOがいて、こちらを見ていた。  もちろん穴があき虱のわく工員服ではなく、清潔な白いシャツとズボンを身に着けている。かつての面影はない。  けれどもその瞬間に、南洋の潮風のにおいをかいだ。全ての記憶を揺り起こす強烈なものだ。  目が合うと彼は会釈した。  その場で別れることもできたが、滝沢はなつかしさから呼び止める。Oも嫌がる素振りはなく、足を止めた。  帰路を急いでいたはずだったが、その理由を忘れてしまった。それほど大切な用事ではないはずだ。  滝沢は偶然にOと再会したのだった。
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