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ぼくと万屋とかいう胡散臭えおっさん。
もう絶対家なんかに帰るもんか。
そう決めて、車1台が通れるほどの路地を自転車でひた走る。
いつもチームメイトと走っているはずの道は、どこかそっけない。
でもぼくは、唇をひき結んで、顔で風に真っ向から立ち向かう。
そろそろサッカーをやめろって、それはないじゃないか。
なんのために小学生の頃からジュニアチームでコウタとがんばってきたと思ってるんだ。
今のユースでレギュラーの座を維持するのがどれだけ大変か。
そんなことは言わなくても、母さんなら分かってくれてると思ってた。
なんで毎日家に帰ってからも自主トレを欠かさないのか、そんくらい大変なことなのに。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
いくら母さんだって、成績が落ちたのを理由にそれを盾にするのは許せない。
奥歯を噛み締めて、サドルから尻を浮かした。
立ち漕ぎで自転車を走らせる。
住宅街の風景は、漁村の面影を残した路面電車区間に変わっている。
カンカンカンと、江ノ電が路面区間を通り過ぎる警告音が鳴って、車がゆるゆると道路端に停止する。
ちらりと背後を振り返ると、江の島駅から出発した緑色の電車の姿が見えた。
まだ距離はある。
歩道側から道路側にハンドルを切って、思いっきりペダルを踏んだ。
江の電に追いつかれないまま道路のほぼ真ん中を走り、134号線へと入った。
むわっと潮風が顔の周りをとりまいた。
広がった海岸線に、少しだけ気持ちが落ち着く。
だからといって怒りがおさまったわけではない。
絶対、帰るもんか。
ぼくはそう決意して、車の多い134号線をひたすら鎌倉駅の方に走り続けた。
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