ぼくと万屋とかいう胡散臭えおっさん。

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息が上がり、汗も流れている。 サッカーで走り続けている時と変わらない。 ずっと猛スピードで自転車を走らせてきて、持久力もそろそろ限界だった。 JRの線路沿いを走りながら、スピードを落とした。 ごおっと音を立てて青いラインの入った横須賀線がぼくを横目に通り過ぎていく。 それに重なるようにして、放送が鳴り響いた。 「こちらは、鎌倉警察署です。最近、空き巣が増えています。家を留守にする場合は、必ず戸締まりをしっかりしてください。こちらは……」 鎌倉は、高齢者が多い。 そのせいかよく行政用の放送が流れる。 警察署からの行方不明者の情報や振り込め詐欺への注意喚起もあれば、当然気象情報についてもある。 ぼくは聞き流しながら、車1台分の細い路地へと斜めに入った。 緩やかな坂道を登り、庭の草木が濃い緑に生い茂る家々の並びの途中でスピードを落とした。 ようやく自転車から降りたところは、ちょうど細道がさらに枝分かれした角の平屋の前だった。 車のない車庫の脇で、盛りをとうに過ぎた紫陽花が侘しい色に枯れた花をさらしている。 結局、ぼくが向かったのはいつもの場所。 鎌倉の扇ケ谷に住むばあちゃんのところだった。 何が家出だよ。     
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