ぼくと万屋とかいう胡散臭えおっさん。

3/24
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
コウタのところじゃ、すぐ母さんに連絡が行ってしまう。 他のチームメイトや、学校のクラスメイトの顔を思い浮かべては、頭を振った。 どうせ行くところなんて、ここしかなかった。 自分の不甲斐なさにうなだれながら、自転車をとめた。 でもばあちゃんは、ぼくの知らないうちに母さんに連絡する、なんてことは決してしない。 ぼくにとって、ばあちゃんの家は、母さんも予想できないほど何度も来ているところだった。 自転車の鍵をかけて、車庫から続く塀代わりのツツジの脇を歩いた。 こぢんまりとした数寄屋造の門がわずかに開いている。 その門の前に見慣れない三輪車が止まっている。 サドルの後ろの荷台には大きな木箱がくくりつけられている。 その中にはいろんなものが積み込まれているらしい。 布で覆われていて中身までは見えない。 客だろうか。 怪訝な顔をしながら木戸を引いて、玄関へと続く石畳の通路を歩く。 打ち水をしたらしい石畳は、夏のぎらついた日差しを反射して目にうるさい。 通路沿いに植えられた鮮やかなサルスベリとしとやかなフヨウも、今は盛りと競い合っているのが、今のぼくにはひどく陰気に見えた。 目に入らないように俯いて歩いて玄関にたどりつく。 なんとなく目の端に光ったものがあったような気がして脇を見た。     
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!