ぼくと万屋とかいう胡散臭えおっさん。

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そこには、ばあちゃんが丹精こめて育てるアサガオの植木鉢がいくつも並んでいた。 早朝には咲かせた青や紫の花は、もう閉じて息をひそめるようにしおれている。 夏になると、ばあちゃんはアサガオを必ず育てる。 その鉢の数は、ぼくの両手の指をゆうにこえる。 それが玄関のまわりを占領しているのだから邪魔といえば邪魔だ。 でも年々増えていく鉢植えのアサガオ。 それがばあちゃんの家の夏の風物詩だった。 玄関の引き戸を開けようとした時。 「じゃどーもー」 ガラガラした大声が引き戸の向こうで響いた。 ぎょっとして引き戸の取っ手に腕を伸ばしたまま硬直する。 その直後、引き戸が滑るように開いて、大きな影がぬっと現れた。 息を飲んだぼくの頭上で、「おお?」と驚くような声がした。 顔を上げると、図体のでかい男がぼくを見下ろしていた。 「でかっ」思わず漏れた本音に、男が眉をひそめた。 作務衣姿で頭を綺麗に剃り上げている。 けれど、無精髭が生えていて、どこか胡散臭さをぷんぷん匂わせている。 ばあちゃんの家には全く不釣り合いな人物だ。 思わず本音が表情に出ていたのか、男はかすかに眉をひそめた。 引き戸の片面を男が塞いでいて中は見えない。 その向こうから、「凪沙?」とぼくの名前を呼ぶ声がした。     
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