第1章 とうめい

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朝起きると、体が見えなくなっていた。 パジャマごと、とうめいになっていた。 パジャマを手探りで脱ぐと、体から離れたところから、すぐに普通に見えるパジャマになった。 服を着ていくと、体が触ったところから、ゆっくり服は透明になった。 たいへんだ。 ぼくはどうしてしまったんだ。 「お母さん、大変なんだ」 思わず叫んだら。 「そんなに慌てなくても、大丈夫よ」 かあさんはいつも通りの落ち着いた声だ。 ぼくの家族は変わっていると、前から思っていた。 父さんが時々いなくなるときがあった。 そのときも、かあさんはいつも通りに笑っていた。 そしていつもの通りにとうさんの分もごはんをもりつけるんだ。 そういう時は、ぼくは何も聞かないまま、学校に行く。その方がいいような気がして。 だからそのあとは知らない。 子供として、タッチしない方がいいことかもしれないと思うんだ。 いつの間にか、とうさんは家に帰ってくるようになる。 そういう時にかあさんは、何も変わらず、いつも通りぼくに笑ってくれる。 「かあさん、ぼくの体見てよ」 かあさんは、当然のように言った。 「しかたないよ…そういうものだから」 そういうものって、どういうものなんだよ。 その日の朝ごはんは、いつものとおりだった。 ただ、弟が先にご飯を食べさせられて、先に家を出て行くことになった。 「にいちゃんどこにいったの? ねえ、にいちゃんは」 そうだよな。それが普通だよ…でもかあさんもとうさんも 「寝てんじゃないか」 「昨日遅くまで起きてたんじゃないの」 なんてとぼけている。 もちろんぼくは、わめいて、弟の耳を引っ張ったり、体を突っついたりしていた。でも、何にも感じないみたいなんだ。 どういうことだよ。ほんとうに。 涙がでちゃうよ。 「そうだよなあ、初めてだもんな」 弟が外に飛び出していったあと、父さんが僕のそばに座って、背中をなでてくれた。 はじめてだもんなって、とうさんもなったことがあるっていうこと? 「こんなに早く、体験しなきゃいけないなんて。かあさんは大人になってからだったのに」 かあさんが、ぼくの髪をなでてくれる。 大人になってからって、かあさんもとうめいになったということ? 「難しいかもしれないけれど、とにかく、あさご飯を食べなさいね」 朝ご飯は、いつもの通りおいしい。。卵焼きは大好きだ。
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