第1章 とうめい

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でも、気持ちがつらくなって、のみこめない。とうめいのおはし。卵焼きをつまめば、少しこげたたまご色が、みるみるとうめいに変わるんだ。こんなことが、おこるなんて。 「そうだよなあ、のど通らないよなあ。はじめてだもんな」 とうさんはそんなことばかり言ってる。 「とうさんもそうだったよ。最初はどうなっちゃうのかと思ったよ」 どういうことなのか、説明してよ。 「とうめいになる人と、ならない人がいるということだよ」 とうさん、どういうこと? 「世の中には、体が時々とうめいになる人と、ならない人がいるということよ」 どういうことなの、かあさん、そんなこと知らなかったよ、ぼく。 「かあさんも、それ以上のことは知らないのよ。ただ、あなたは、とうめいになる人だった、ということが今日確かになったの」 「とうさんだって、それ以上は知らない。このことは、なった人にしか理解できないことだから、あまりおおやけに話されないことなんだ」 理解できないよ、ぼく。 「そうだよなあ、とうさんも、おばあちゃんに説明されても、分からなかったもんなあ。でも、分からなくても、とうめいな体になってしまうのだから、受け入れるしかないんだ、って、おばあちゃんに言われたなあ」 「かあさんも、あなたのおじいちゃんから、そのうちになれるって言われたわ。最初は悲しかった」 なぜ今まで、教えてくれていなかったの? 知っていたら、よかったよ。 「とうさんもむかしそう思ったよ。でもさ、なってみないと、体がとうめいになるなんて、信じられないんじゃないかな」 「そこがつらいところなのよ。体がとうめいになります、なんて、とうめいにならない時に聞いても、かあさんはわからなかったと思う。怖くなったかも知れない、病気のように思ったかも知れない」 かあさんもとうさんもおかしいよ。病気かもしれないし、治るかもしれないし、研究すればならない薬ができるかもしれないのに。 「初めてとうめいになったから、あなたはまだわからないかもしれないけれど」 かあさんは続けた。 「これは病気じゃないって、そのうちわかるようになるわ」 かあさんは、ぼくの髪を、自然にさわった。 「それにね、とうめいになったことがある人同士は、みえるようになるのよ、ちゃんと」 この日、いつも通り学校に行くようにといわれて、どうしようもない気持ちのまま、登校した。 そして。 だんだんと見えてきたんだ。
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