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しばらくして、二階が崩れた。もう駄目だ!
そう思った時、玄関から毛布に包まったマヤを抱いて、キリコが飛び出して来た。
その途端、玄関は一階ごとへしゃげて崩れ落ちた。
マヤは気を失っているが、息はあった。
無事で良かった。キリコに感謝した。
そしてキリコを見ると、彼女の左腕の肘から先が、潰れて無くなっていた。髪も焼け焦げ、ぼろぼろだ。「無事で良かった」キリコはそう呟いたまま、動く事はなかった。
「キリコ、君は…」キリコの肘から、電子部品がむき出しになっていた。
彼女はアンドロイドだったのだ。
翌日、マヤが寝ている病室に、派遣所の人間が訪ねて来た。マヤに聞かせたくなかったので、ロビーに出た。
男は、キリコの処分にサインが欲しいと言う。
「もう使い物にならないのでね。よければ、また新しいやつ、派遣しますよ」
「おたくが派遣するのは、人間じゃなかったのかね?」私は尋ねた。
「もう今はAIの時代です。これは世の中の流れですから」と男は事務的に応えた。
「しかし、彼女から血が出て…」
「ああ、あれはね、皮下組織に薄い膜で作ったものです。ほら、人間味が出るでしょう?」と男は笑った。
私は、何かやりきれない物を感じた。
「まあスクラップ同然ですから。さっさと済ませましょう」そう言って男は、承諾書を差し出した。
私は突然、怒りが込み上げてきた。
「スクラップと言うな!そんなゴミ扱いは許さん!」私は大声を上げていた。
男は驚いた顔をしながら「何を興奮してるんですか?たかがロボットに」と苦笑いをした。
「お前達より、キリコの方がよっぽど人間らしいよ」そして私は「キリコはお前らに渡さん。私が彼女を引き取る」そう言った。
そして私は承諾書を、その場で破り捨てた。
「いいでしょう。でも、かかった費用は払ってもらいますよ」男は捨てゼリフを吐いた。
「構わんさ」
そして男は出て行った。
キリコが造られたなら、治せる道もきっとあるはずだ。そういう施設を当たって行けばいいのだ。
私は人の心を、機械は理解出来ないと思っていた。
しかし、人間こそが機械を理解すべきではないのか。いや、通じ合えるものがあるのではないか?
そう思うようになった。
キリコ。必ず生き返らせてあげるからね。
私は、冷たいキリコの右手を握りしめた。
終わり
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