1話 防虫剤

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私は買い物の途中で、昨晩の事を思い出していた。 「あなた!また浮気したでしょう!」 私は夫の上着から、キャバクラの名刺を出した。 「何だよ。ただの接待だよ」夫はテレビを見ながら応えた。 「この前は、会社の若い子とデートしてたじゃない!」すると夫は「ただの食事だよ。疑ぐりすぎだって」と素知らぬ顔だ。 私は夫が、若い子とちょくちょく合っているのを知っている。主婦の直感を舐めんじゃないわよ! あー腹が立つ! 雑貨売り場をうろうろしていると「あら?何かしら?」手に取ると " 防虫剤 (人用 ) " と書いてあった。 店員に聞くと「新商品で、虫だけでなく、近づけたくない人にも作用するものです。試しにいかがですか」と勧めてきた。 「ふーん。人にも効くんだ」私は試しに、それを買って帰り、夫の上着の内ポケットに忍ばせておいた。 朝の通勤、俺はいつものように、満員電車に押し込まれた。すると「何だ?」俺のまわり一m、誰も寄ってこない。俺は慌てて、自分の上着の匂いを嗅いで見た。無臭だ。まあ、身体は楽なんでいいか。 そして、会社のロビーでミサちゃんを見つけた。彼女とはキスをした仲だ。 「おはよー!」俺は声をかけた。 すると「ちょっと!近寄らないでよ」ミサは、蝿を追っ払うように手で払い、そそくさとエレベーターに向かった。 「え?何で?」俺は呆然と見送った。 昼休みになり、得意先のサキちゃんとランチの約束をした。そして約束の場所にサキちゃんを見つけて近づくと「やっぱり今日はやめときます。なんだか気分じゃなくなったので」とサキは帰って行った。 「ちょっと!どういう事?」訳が分からなかった。 仕方なく、秘書室のマキちゃんと飲みに行く約束をした。よし、今夜こそ決めるぞ! 夕方、ロビーを出たところでマキちゃんを待っていると、彼女が現れた。 そして俺に近くなり「うわ、やっぱり無理だわ。今日はキャンセルね」と嫌そうに顔を歪めて言った。 「えー?一体何なんだよ」朝から、ことごとく断られているではないか。
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