彼と彼女の祝福

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 女には昔から彼が見えていた。神であったのにも関わらず、である。彼はいつも同じ、白樺の木の上にいた。  女はもう彼が神として存在しているわけではないとわかっていた。  けれども。  困ったとき、助けてもらいたいとき。そんな時はいつも彼を頼った。  彼が助けてくれたとき、嬉しかったとき、楽しかったとき、ささやかな幸せを感じたとき。そんな時はいつも彼に感謝した。  だから、女は「神に」ではなく「彼に」願ったのだ。  しかし女は彼の名前を知らないので、「神様」と呼ぶより他はなかったのである。  彼はいつも冷酷に女を追い払うが、結局助けてくれる。そんな彼に感謝こそすれど彼を嫌うことはない。  彼女が抱いてきた赤子は母親に捨てられ、銀の髪は不吉だと他の者に煙たがられた。けれどもその赤子を煙たがった者たちはこの土地からいつしか姿を消していた。つまりそれはこの土地には親子を除き人がいなくなったことを示す。  女は、毎日彼がいる白樺の元を訪れる。ただ自らが引き取った赤子の幸せだけを願うためだけに毎日、毎日。
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