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「なぁ、藤倉ってピアス空けてたの?」
「へ、」
帰り道、いつも通り車両の壁と藤倉に挟まれながら電車に揺られていた俺は、ふと気づいてしまった。
いつものようにくだらない会話をして帰宅している途中。電車の端の、二人だけの空間。何を話していたのか忘れてしまったが、俺が笑うと珍しく藤倉も声を上げて笑った。
それが何だか嬉しくて、彼の笑った顔をよく見たくてふと隣を見上げると少し乱れた髪の隙間からちらりと覗いた形の良い耳。そしてその耳朶に少し見えたピアス跡らしきもの。
普段は長めの横髪で耳元が隠されていたので気づかなかったが、数えてみると一、二…あれ、上の方にももう一つ?
跡らしきところを目線で辿っていると、少し慌てたように藤倉が髪型を元に戻す。
俺がしっかり数え終わる前に、色白の耳はほとんど隠されてしまった。
「あー、と…」
「藤倉?」
「えーと、昔にちょっとだけ…ね」
「ふーん?」
俺から見えた左耳だけでも三つ…。何か意外だな。
そういうの、興味無いんだと思ってた。
それにしても、何でそんなに慌ててるんだろう。
「ご、ごめん…」
「え、何で謝るの」
「いや、何となく…」
「もうしないの?ピアス」
「うん。しないよ」
「そっかぁ…。絶対似合うと思うんだけどなぁ」
「ふぇっ?!」
今度は変な声を上げて固まってしまった藤倉。いつも変だけど今日もしっかり通常運転みたいだ。
良かった良かった。
普段制服は割ときっちり着こなしていてどちらかと言うと優等生みたいなイメージがある藤倉だが、ちょっと着崩した格好もきっとすごく似合ってしまうんだろうな。
髪色は地毛なのか染めてるのか分からない少し明るめの茶色で、癖っ毛なのかスタイリングしてるのかこれまたよく分からない髪はところどころ毛先がくるんと跳ね上がっていてこれまたお洒落だ。
ピアスした藤倉は今とはきっとまた違う雰囲気で、もしかしたらすごく女遊びしていそうなチャラい感じになるかもしれない。
それはそれでファンクラブの子が大変なことになっちゃうだろうけど。
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