いつもと変わらない朝

2/5
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 電動自転車で悠々と僕の前を疾走する彼の名は金木直人(かねきなおと)。  まるで金の成る木を持っているかのように羽振りがいい。だから、あだ名は『カネ』だ。  カネとは小学校から高校までずっと一緒という腐れ縁で、僕の昔からの相棒だ。  身長は僕と同じくらいだけど、女も驚くほどの華奢っぷりで、うちのお母さんは彼に会うたびに「しっかり食べてるかい」と声をかける。それに対してカネは中年太り丸出しの我が母に「ダイエット中なんです」と笑顔で返す。その定番のやり取りを初めて早十年だ。 「あのさ、昨日進路相談あったけどさ、カネは大学進学で確定なの?」 「ああ。東京の大学を受けるつもりだ」    息も絶え絶えに話す僕をよそに、カネは悠々と答えて見せた。電動パワーだ。  東京六大学も狙えると先生に言われたらしい。実際にカネは相当勉強ができた。  努力なんて何もしてなさそうなのに、定期テストの順位も常に上位だった。僕とは頭の作りが違うとつくづく思う。僕は勉強しても、しなくても、順位は変わらない。 「北海道、出ちゃうの? 札幌で、十分じゃない?」    僕は小樽生まれの札幌育ち。北海道大好きっ子で、北の大地で一生を終えたいと思っていた。  社会の先生の話によると札幌の人口は増え続けて、200万人都市も目前らしい。  北海道の人口の3割以上がこの札幌という街に集っているそうだ。  遊び場所はいくらでもある。ススキノはまだいったことがないけど。親が勤める会社だって札幌にある。人と物が集まる街。それだけ魅力があるってことの裏付けだと昔から思っていた。    北海道で札幌に次ぐ観光地といえば、やっぱり小樽だ。僕自身も小樽が好きで年に何度かは遊びに行くんだ。やっぱり小樽築港とか祝津辺りの海がいい。  小樽駅と札幌駅の区間は、JR北海道が誇る快速列車「エアポート快速」に乗れば最速32分で移動できる。   「やっぱり北海道でしょ。なんといってもスキー。後、海鮮ね!」  東京に単身赴任中の父さんからの受け売りだけど、関東で北海道並みのパウダースノーを堪能するのは簡単じゃないらしい。魚も美味しいものは基本的に値が張るそうだ。 「だったら、俺をもっと楽しませろ。そうしたら北海道の大学で我慢してやるぜ」  僕の相棒は何か変なことを言っています。ばかだねこいつ。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!