赤毛の猫

8/15
前へ
/26ページ
次へ
 先生の分の汁粉を椀にあげながら私は、先生の話と、そのはしゃぎっぷりと、先ほどの猫の話を合わせて、状況を整理した。今分かっているのは、先生が散歩に出た先でこの猫、<チャコさん>と出会ったこと。そして、チャコさんは先生から逃げ続けて、先生はそんなチャコさんに話しかけ続けて、そうしているうちにチャコさんは烏に襲われそうになり、先生が恐らくは間一髪、チャコさんのことを抱え上げ、それをきっかけに己が怪異と化していることをチャコさんは先生に話すに至った、のであろう、ということだ。先生がチャコさんを助けたのが間一髪だったのであろうと私が踏んだのは、先生の運動への慣れなさゆえではなくて、足元についた砂埃と乾いた泥がためだということも、先生の名誉のために補足しておかねばなるまい。  「お待たせしました。冷めるのを待っていたら、すこしかかってしまいまして。」  「あぁ、大丈夫大丈夫。ぼくがやけどをしてしまうよりは、ずっといいよ。ありがとう。」  私が渡した椀を受け取り笑って、ひとくちをすすり、うん、と膝をぽんと叩いた。先生の膝の叩くのに驚いたらしきチャコさんが、揺らすなら言え、若造、と、先生に向ってまた、暴言を吐いた。私はもうすっかり気の遠くなりそうな気持で、それでもなんとか、ここで気を失ってしまったら先生の身の安全を気にする人間がどこにもいなくなる、ということを肝に銘じて耐えたのだ。  「それではね、チャコさん。わたしは知っているけれど、彼らはまだ何も知らないからね。」  「道中、主には伝えたろうが。なぜまた儂が、」  「ほら、わたしはうまい汁粉をうまいうちに、食べるのに忙しいものだから。」  先生はそうして、汁粉の椀を両手に抱えるように持つ。それはもう、汁粉を堪能し尽くすまではてこでも譲らないというポーズだった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加