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そうして化け猫、チャコさんの話し始めたのは、彼が先生に声をかけたのにも「烏から守ってくれたから、というだけではない」理由があったというそのわけで、それは要約すると、こういうことだった。
昨今、猫社会に少々厄介な問題が発生している。
というのも人間による猫の連れ去りが多発しており、その多くは元の縄張りに帰されるが、縄張りというものはそもそも人間の知らぬところで刻々と変化しているものであるから、しばらくの期間のあいたそこには、元いたとはいえ帰された猫の居場所はとうにないのだということ。それを知らずに連れ去り、元の場所へ戻しさえすればよいのだと考える人間への苦情の声が相次いでいること。縄張りがなくなったせいだけとは思えないほど如実に、連れ去られた猫の気質が変化し、その多くはより攻撃的になって、ごく一部は何の気力もなくなってしまったというように日がな一日ぼんやりとして、飯を食うこともろくにしなくなってしまうのだということ。
それを老猫はつらつらと、しゃがれ声の割には流暢にそんなことを語り、最後に、と言ってから、羽杷木の用意した小皿の水をぺろぺろと三度舐めてから、付け加えた。
それはいっそ、これまでなんとか平静を保つよう、先生の助手として怪異程度に心を揺さぶられたり不安がったり信じられないだとか思ってしまったりということのないよう努めていた私がいっそ慌ててしまった言葉だった。これまでのおとぎ話のような、可愛らしい不思議の話などではない、もっと生々しく、身近で、悪意すら感じる話だった。
「儂には人間の違いは色くらいしか分からんが、お前に似とるのだ。同輩を連れ去る人間というのが。」
羽杷木と、チャコさんの目がまっすぐに、ぶつかっていた。こんなばかみたいな体格をした壮年の男がそうそういるとは思えなかった私もまた、羽杷木を見た。
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