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プロローグ【ドール先輩、現る】
――くしゅん!
そんなくしゃみをした瞬間、陶磁器人形を抱えるおばあさんはよろめいた。
「危ないっ!」
背後を歩いていた小日向雛太は、おばあさんの体をとっさに支える。
「はあ、ほめんねー。あたひ、はふんしょうでねえ」
ん? 今なんて言った?
――はあ、ごめんねー。あたし、花粉症でねえ。
脳内翻訳するのに一瞬時間がかかったが、とにかく運んでいた西洋風の陶磁器人形をおばあさんが地面に落下させて割ってしまうという惨事は免れた。
「大丈夫ですか。近頃、花粉がひどいですけど――」
そう言いかけて、ぎょっとする。雛太の方に顔を振り向けたおばあさんは蜘蛛の巣のように複雑怪奇な形の青っ洟を垂らして前かがみになっていた。
「あなた、悪いけど人形持っててもらえる?」
「あ、はい」
そこまで盛大に鼻を垂らされたら、何を頼まれても雛太は断る自信がない。
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