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気まぐれ
その絵馬が掛けられる瞬間を見たいと思うようになったのは、触れた回数が両手では足りなくなった頃からだ。
ただでさえ欲望が多く、あれもこれもと願いを託す人間が多い中、あの絵馬だけは表の言葉も裏の言葉も変わる事はなかった。
絵馬が掛けられる瞬間を見る事ができたら、どんな人間が少し右上がりのあの綺麗な字に切なる願いを託しているのかが解る。
ーー解ったとして、どうするつもりなのだ、俺は?ーー
神力を使って人間のフリをして近付く? どんな人間かを見定めて……真意を聞く? 聞いてどうする? 神力を使って介入するのか、今までの投げつけるように託された願いのように叶える事なく過ごすのか? そもそもこの絵馬を書く者は生きたいのか、死にたいのか。きっとそれも解るだろうと思う。なにしろ俺は神様だから。
「……ま、近いうちに会える事に違いはない、な」
独り言は誰もいない本殿の空気を揺らして消えた。
翌日から朝昼夜と境内に出るようになった。
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