絵馬に託す願い

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絵馬に託す願い

 人は人の数だけ、いやそれ以上の欲を抱えて生きている。    そして俺は奉納された絵馬を通してその欲に触れる。  不思議なもので、触れてしまえば書かれた言葉の裏まで透けて見えるのはやはり俺がいわゆる神様という存在だからなのだろう。 「合格祈願。志望校に入れますように、か。それで? あぁ、誰かは知らんが……アイツは落ちますように、な」  サクラサクは自力で勝ち取れ。神頼みは残念ながら通用しない。学生よ、お前の願いは俺の叶えられるものではないようだ。  奉納された絵馬は大きな木箱に収められ、量にもよるが大体はその日の終わりに本殿に運び込まれる。さあ次だ。まだ山のようにある。全く欲深いものだ。 「あぁ、これ、は」  ーー神様どうかお願いします。僕を助けてくださいーー  毎回変わらぬ文言なのだ。二、三日に一度……いや、前回からはもう四日経っている……不定期に掛けられるその絵馬は、自分の出世を願うでもなく、得を祈るでもなく、ただ救いを求める言葉だけを重ねている。  書かれた言葉の裏はーー 「……神様、僕を殺してください……。やはりまた同じか」  いつも己の死を望んでいた。
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