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待ち人
目の前を学生服に身を包んだ男女が仲睦まじく通り過ぎてゆく。
俺は彼らのあとを追い、肩寄せ合って絵馬に願いを書き込む二人の肩の間からひょいと覗き込んだ。
覗き見とは大した悪趣味だと思うものの、彼らからは見えないし、なかなか現れない待ち人を現行犯で捕まえたくなったのだから仕方がない。
「同じ大学に行けますように、か」
ハズレた。まぁそうだろう。想い人の横で助けてくれなどと書くわけもない。
次に絵馬を手に取った男は妻の腹の中の赤ん坊の無事を祈願して、賽銭を奮発し、ついでに社務所でかなり値の張る御守りを購入して帰って行った。ありがたい事だ。
今日も俺は待ちぼうけを食わされるらしい。陽はすっかり傾き、蝋燭の炎のような濃い橙色が墨に呑まれようとしている。
絵馬掛所にもたれて、ところどころ塗装の剥げた朱塗りの鳥居の奥ーー俺には行けない人間の世界ーーを見つめる。
「御神籤でも引いてみようか」
待ち人来ず。きっとそう書いてあるに違いない。
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