20人が本棚に入れています
本棚に追加
それからしばらく私たちは黙ったまま、シーが身体をぶるんと震わせたり、レジ袋に顔を近づけたり、ウロウロ歩いたりする様子を眺めていました。
どこまで行くの?
おばあちゃんの家まで
この近く?
いえ秋田です
そうか秋田かと思いました。
そしてようやく私は、むかし好きだった人も秋田出身で、どことなくこの女の子と顔が似ていたことに気がつきました。
彼女は純粋な日本人でしたが、やはりハーフのような顔をした美しい女性でした。
しかし腕にはリストカットの跡があり、最後に自殺してしまいました。
じゃ行くね
元気で
ありがとう
私は立ち上がりパイプ径アーチ型の車止めから、リードを外しました。
最後に女の子は、はしゃぎ始めたシーの頭をなんとか撫でてくれました。
バイバイ
女の子は軽く手を振りました。
シーと私は、駐車場から公道へ向かって、歩き始めました。
女の子は、しばらく私たちを見送ってくれていましたが、しばらくして車の方へ元気よく駆け出しました。
ほんとに偶然出会った女の子だったけれど、むかし好きだった彼女が天国から舞い降りて来て、シーに大切な話しをしてくれたような気がしました。
とてもあり得ない話しだけど、そんな気がしました。
でもあの子は頑張って生きて欲しい
そう思いました。
夜空にはいくつかの星が輝いていました。
私の母が癌のため60代前半で亡くなった晩、まだ3歳だったあの兄の1人娘が、夜空を見上げ星に向かって、おばあちゃんと叫んだことを思い出しました。
そして兄の妻、娘の母親が、南の空に1番輝いている星が、おばあちゃんの星だからね、と娘に聞かせてあげたことも思い出しました。
あれからもう10数年経ちます。
父も亡くなり、家には私1人になりました。
しかし、それからシーと暮らすようになりました。
振り返ると女の子はもう車の中のようです。
シーは何事もなかったかのように、さかんにしっぽを振って、ともに暗い道へと歩いてくれました。
最初のコメントを投稿しよう!