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「おね、がぃ」
願う。どこかで見ているかもしれない神に、運命に。
「あっ――」
真摯な願いは、届く。
――扉が、開く。
裏通りにある扉の一つが軋みをあげて開いた。倒れ込むように中へと入る。後ろで扉が音を立てて閉まる。
慌てて鍵をかけた。その直後、扉の向こう側からブーツの足音が響き、遠ざかって行く。目の前で締めたばかりの扉が開くことはなかった。
「はあ」
安堵の息を吐いた。それと同時にぴんと張っていた糸が切れるかのように床へと倒れる。絨毯も何も引いていない煤汚れの多い黒ずんだ木の床に倒れ込む。
ほとんど一日中働き続けたあとに、逃げて走った。もう体力は限界を超えている。脚の筋肉は燃えているかのように発熱していた。
意識がもうろうとする。まだここが安全かもわからないのに、切れた意識の糸は容易にはつながらない。瞼は落ちて、そのまま水に沈むように意識は闇へと落ちて行った。
明日、また目覚められることを祈りながら。
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