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「ひとまず解決かの。(みな)、ご苦労であった。そなたらには何か褒美を……」 「お待ちください、閻魔大王様!」 閻魔大王の言葉を遮ったのは咲久だ。 「む、どうした?」 「脅されたとはいえ、誘拐事件の実行犯はアタシです。どうか、アタシにも罰を……!」 咲久は閻魔大王の前で跪いて訴えかける。 (咲久さん……) 瑠璃はなんとも言えない気持ちで、咲久の背中を見つめる。 「うーむ、そうだなぁ……。では猫の湯は半年無料で経営せよ。従業員達の給与は、身銭を切ってそなたが払え」 「え……?」 咲久は驚いて顔を上げた。 「それだけ、ですか……?」 「では普通の温泉まんじゅうをここに納めよ。あの苦いまんじゅうの倍の数をな」 閻魔大王は豪快に笑った。 「閻魔大王様、お言葉ですが軽すぎませんか?私は数多の遊女を誘拐したのですよ?」 「うちの愚老(ぐろう)のせいでな。お前は従業員や子供達を守ろうとしたのだ。むしろ詫びを入れねばならぬのだが……、罰を与えなくてはならぬ。すまないな……」 閻魔大王は申し訳なさそうな顔で言う。 「そんな、身に余るお言葉を……」 咲久はその場で泣き崩れた。 「ところで恭よ。あの苦まんじゅうは咲久が用意したものだろう?」 「あゝそうだ」 「よくもまぁいけしゃあしゃあと自分で作ったなどと言えたな」 「“善良な町人”とは言ったが、“自分”とは言っていない」 「『本人達の前で』と言ったろう」 「薬草を採ったのは瑠璃と赤兵衛と咲久だ。そしてまんじゅうを作らせたのは咲久だ。確かに『本人達の前で』とは言ったが、そこに私が含まれてるとは一言も言っていない」 「お前は本当にああ言えばこう言う男だ」 閻魔大王はそう言って苦笑した。 咲久が落ち着くと、一行は牛車で猫の湯を目指した。 途中、幸雪を下ろして猫の湯へ行くと、たくさんの遊女達で溢れかえっていた。 猫の湯の従業員はてんやわんやしている。
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