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「きっと迎えに来たのね……。さて、ひと仕事ひと仕事」 すっかりいつもの調子に戻った咲久は、手伝いに向かおうとする。 「咲久」 「なんだい、恭の旦那」 「瑠璃を一晩頼んだ。私はやる事がある」 「アタシは構わないけど……」 咲久は瑠璃を見やる。 「何かご用事なんですよね?私は大丈夫ですよ」 瑠璃はにっこり笑って言う。 「物分りがよくて助かる。明日の朝、迎えに行く」 「はい、待ってますね」 瑠璃の返事を聞くと、恭は和装外套を翻して猫の湯を後にした。 恭が向かったのは、花街にある酔狂だ。 「おや、恭さん。聞き込みかい?」 中に入ると、桔梗は煙管を吸ってくつろいでいた。 「いや、事件は解決した。明日にでも瓦版が出るだろう」 「そうかい。じゃあ今日はどんなご用事かしら?」 「冷夏と忙しさで忘れていたが、そろそろ夏祭りの時期だろう?いつなんだ?」 桔梗は一瞬固まり、息と共に煙を吐いた。 「1週間後よ。……瑠璃ちゃんはどうするの?」 「それは本人が決める事だ。邪魔したな」 恭は水瓶の縁に小銭を置くと、酔狂を出てひとりで屋敷に帰った。 その頃瑠璃は、遊女達が元の見世の者と会わせるのに苦労していた。 誘拐されていた遊女の中には、将来有望な者や、看板遊女なんかもいた。 どさくさに紛れて他の見世の遊女を連れ帰ろうとする者がいるので、気が気でない。 「かおる!」 鈴の音の様な声が、瑠璃の耳に届く。 「姉様(あねさま)!」 夕霧太夫が駆け寄り、瑠璃の隣にいた遊女を抱きしめる。 「姉様、姉様ぁ……。ごめんなさい……」 「心配しんしたよ、かおる……。もうわっちのそばから離れないでくんなしね?」 「あい」 ふたりは抱き合い、喜びの涙を流す。 (夕霧さんの所もいなくなってたんだ……。再会できて良かった……) 瑠璃はあたたかな気持ちでふたりを見つめた。 「あら、確か恭といた……」 瑠璃に気づいた夕霧は、涙をぬぐいながら彼女を見る。
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