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恭の悲しげな表情に瑠璃はどうしていいか分からず、ひとまず手を握り返した。 それを合図にしたかのように、恭は口を開いた。 「瑠璃、1週間後に夏祭りがある。一緒に行かないか?」 「はい、行きたいです」 「では浴衣を見立ててやろう」 「いいんですか?」 瑠璃は目を輝かせ、恭を見上げる。 「あゝ、期待していろ」 恭はそう言って笑った。 (綺麗……) 滅多に笑う事のない恭の笑みに見蕩(みと)れていると、頬をつままれた。 「な、何するんですか……」 「人様の顔をまじまじと見るからだ」 その言葉で自分が恭に見蕩れていたことに気づき、顔を赤くする。 「す、すいません……」 瑠璃が慌てて視線を逸らすと、恭の笑い声が降ってくる。 (さっきのは気のせいだったのかな?) 瑠璃はそう思いながら、幸せな気持ちで屋敷へ帰った。 帰ってこなかったのは一晩だけだというのに、酷く懐かしく感じる。 「恭さん、朝餉は食べましたか?」 「いや、まだだ」 「じゃあ着替えてから作りますね」 「あゝ」 瑠璃は着替えるために自室へ戻った。 畳に座った途端、睡魔が瑠璃を襲う。 (あれ……?猫の湯で寝てたはずなんだけど……) 瑠璃の意識は途切れ、瑠璃の身体は畳に横たわり、寝息を立てた。 次に瑠璃が目を覚ましたのは、太陽が高い位置まで昇った頃だ。 強い日差しに起こされ、瑠璃は欠伸をしながら伸びをする。 「うーん……よく寝たぁ……。ん?ああっ!」 瑠璃は慌てて食卓へ行った。 食卓では恭は茶をすすり、ちゃぶ台の上にはふたつの握り飯があった。 「す、すいません……。自分で作るって言ったのに……」 瑠璃は(こうべ)を垂れながら謝る。 「気にするな。連日の疲れが溜まっていたのだろう。それに咲久の事だ、猫の湯一の部屋でも用意されて寝付けなかったろう」 「え?なんで豪華な部屋だって分かったんですか?」 瑠璃は目を丸くする。
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