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「腐れ縁だからな」 「おふたりは付き合い長いんでしたっけね」 「そういう事だ。それよりはやく食べてくれ。出かけるぞ」 「出かけるって……どこにですか?」 首を傾げる瑠璃に、恭はため息をついた。 「浴衣を見立ててやると言ったろう」 「今日だったんですね、てっきり別の日かと思ってました」 瑠璃はそう言いながら、定位置に座る。 「なんなら明日でもいいが、どうする?」 「今日行きたいです」 「ならはやく食え」 「はい、いただきます」 瑠璃は手を合わせてから、握り飯を頬張った。 片付けを終わらせ外に出ると、1羽の(からす)が紙をくわえて飛んできた。 鴉は恭の肩に止まり、紙を恭に差し出す。 恭が髪を受け取ると、鴉は飛んでいった。恭は目を通すと、丁寧に折りたたんで懐にしまった。 「誰かからの文ですか?」 「いや、瓦版だ。ぬらりひょんが誘拐事件の首謀者だとしか書かれておらん。そのうち詳細が書かれた瓦版も出るだろう」 「どう書かれるかなんだか不安です……」 「そう不安がるな、これを書いているのはのっぺだ」 「あの、のっぺさんっていったい……」 「妖界七不思議だ。ほら、行くぞ」 恭はごまかすように早足で歩いた。 「待ってください」 瑠璃は慌てて恭の背中を追う。 ふたりは鳥街の反物屋へ来た。 店内には色ごとにわけられた反物がずらりと並ぶが、恭は他の色には目もくれず、黒の反物が並ぶ奥へ行った。 恭はあれこれ見ると、ひとつの反物を瑠璃にあてがようにして少し広げた。 「よく似合っている」 恭は満足げに言うが、あてがわれている本人にはどんな模様なのかよく見えない。 「あの、恭さん。どんな模様を選んでくれたんですか?」 「ん?あゝ、これでは見えぬか」 恭は瑠璃の目前に、反物を持ってくる。 それは黒地に薄桃色や白の大菊が描かれた美しいものだった。
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