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だがそれは恭の奇行の始まりだった。
ようやく書斎へこもったと思えば、普段ほとんど行かない縁側へ行ったり、食卓の定位置で茶を飲んでいた。
極めつけとしては、鳥街や風街へ散歩へで出かけたりするようになった。
あの人間嫌いの恭が、だ。
鳥達が瓦版を持ってきた時に瑠璃に読み上げて聞かせるくらいで、後はどこか寂しそうな顔をして遠くを見ている事が多い。
瑠璃が思い切って聞いても、「なんでもない」と言うだけだ。
気になって恭がこもっている時に覗けば、手にした本をパラパラとめくり、閉じてはため息をつき、結局外を眺めた。
恭は日に日にため息が増え、表情も暗くなっていく。
夏祭り前日、反物屋が瑠璃の浴衣を持ってきた。
瑠璃は店主に言われ、試着をした。恭は相変わらず引きこもっている。
「どこかおかしな所はないかい?」
「はい、大丈夫です」
「ふふ、よく似合っているよ。恭くんは部屋にこもっているのかい?」
「はい、そうですけど……」
「それなら好都合だ。浴衣姿は当日までお預けするといい」
「なんでですか?」
はやく恭に見せたいと思っていた瑠璃は、首を傾げた。
「複雑怪奇な男心というやつだよ。それじゃあまた」
店主はいたずらっぽく笑うと、屋敷を出た。
「男心……、うーん……?」
瑠璃は考えてみるが、女の瑠璃にはいまいち分からなかった。
だが店主の言う通りにした方がいいと思い、普段の着物に着替えなおした。
翌朝、恭はいつも通りと言うほどではないが、それなりに回復していた。
瑠璃は朝餉が終わったら声をかけてみようと思いながら、朝餉を作った。
(うーん、朝からこれは重いかなー?でも私が子供の頃普通に出てたし……)
瑠璃は悩みながらも、レトロ街の図書館で叩き込んだレシピを思い出しながら作る。
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