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一年後、恭と瑠璃は鳥街の民家へ来ていた。 恭は真剣な眼差しで、苦しそうにしている子供を診察する。 「先生、うちの子は……」 母親は心配そうな顔で恭に聞く。 「ただの風邪だ。念の為解熱薬も出しておこう。瑠璃」 「はい」 瑠璃は薬を数種類選び、母親に渡した。 「食後に一包みずつ飲ませてあげてください。こちらは解熱薬なので、高熱が出た時に飲み、飲ませてあげてくださいね」 「ありがとうございます、いつも助かります」 母親は頭を下げながら薬を受け取る。 「急変したらすぐに来るように。それでは」 恭はお代を受け取ると、一礼して外へ出る。 瑠璃も恭に続いて民家を出た。 「そろそろ昼時だな、どこかで食べるか」 「はい」 猛暑の中、ふたりは近くの飯屋へ入る。 注文を済ませると、お冷を飲んだ。 「今年は熱いな……」 恭は扇子を懐から出し、扇ぎながら言う。 「そうですね、去年は涼しかったのに……」 瑠璃は恨めしげに外を見る。 「そろそろ夏祭りの時期だな」 「ふふっ、そうですね。またあの浴衣を着て行きたいです」 瑠璃は去年、恭に選んでもらった浴衣を思い出しながら言う。 「嬉しい事を言ってくれる……。ところで瑠璃、何故あの反物と簪を選んだか分かるか?」 「え?えーっと……、恭さんの好み、ですか?」 「それもあるな。藤と大菊の花言葉は知っているか?」 「花言葉、ですか……。分からないです」 瑠璃は薬学については学んできたが、花言葉までは学ぼうともしなかった。 「まずは藤だが、『決して離れない』。大菊は『あなたを心から愛します』」 「それって……」 瑠璃は頬を赤く染める。 「本心ではお前を離すつもりなど、一切なかった。建前通りにならなくて本当によかった」 「へいお待ち!おや、お客さん顔が赤いね。大丈夫かい?」 料理を運んできてくれた男が、心配そうに瑠璃を見る。 「だ、大丈夫です……」 「暑いから気をつけるんだよ」 男はそう言って裏へ引っ込んだ。
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