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二月の初め、乙女は意気揚々とやって来た。ワシは怖くて、本殿の裏に隠れとった。
「神様! 萩野君も私も私立の学校に合格したよ! だから、この前の話よろしくね。今日は私の全財産持ってきたっ」
賽銭箱に大量の小銭を入れる音がする。仕方ない。疫病神に応援を頼むか。しかし、ホントに良いのかこれで。
この時期、社には「彼がチョコを受け取ってくれますように」という願い事が殺到するんじゃが、もうワシ、ほとんど上の空じゃった。
それから半月と少し経った頃、乙女が血相を変えてやってきた。
「神様! この間の話、やっぱ無しにして!」
今さらなんじゃ。もう疫病神がハギノクンの所に行っておるわ。
「萩野君のお父さん、お仕事がうまくいかなくなってて、だから萩野君、志望先を県立に変えたんだって。授業料免除の特待生を狙って私立も受けたけど、やっぱり県立のほうが安心だって言ってて……」
それは気の毒じゃが、疫病神との契約は取り消せん。疫病神の奴は常に憑りつく相手に飢えとるからな。喜び勇んで『ハギノクン』の家に出かけた奴を今更止めることは誰にもできん。
そう言うと、乙女は泣きながら翁姿のワシに掴みかかってきた。
「憑りつく人間が必要なの? じゃあ、代わりに私に憑りついてもらってよ! 私はもう受験終わったから、しばらく寝込んでも平気だからっ!」
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