窓の向こう

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 きっかけは、学生時代に背負った些細な借金だった。ろくでもない先輩に唆されて、競馬でしこたま負けた。悲嘆に暮れながら歩いていた夜の街で、「スタッフ募集」の求人広告を見かけた。翌日には、売り専のバイトを始めていた。ただ、それだけのことだ。ギャンブルには向かないとわかっただけでもよかったと、今では思う。ただ、それだけのこと。  今日のお客はご新規。二十代、ネコ希望。  前もってハルトに与えられていた情報はそれが全部で、いつものようにそれなりに髪型や服装に気を遣い、いつものように時刻ぴったりに指定の場所へ赴いた。  ごくマニュアル通りに会話をして、緊張がほぐれたところで風呂へ誘い、彼の裸を丹念に洗う。ボディソープを泡立てた手で彼の素肌に触れ、彼の手を取って自分の身体に触れさせ、茂みを泡立て、尻の割れ目に指を這わせる。 「あ、あの……」 「ごめんね、これから使うから、きれいにしよう?」  言いながら人差し指を挿し込んでみると、しかし、硬い表情と裏腹の感触に迎えられる。 「ハルカさん、今、彼氏は?」 「い、いないよ。いたことない」 「ふうん、じゃあ、これは?」  程よい弾力と、柔らかさ。 「誰かとするの、ほんとに、はじめてで……」 「じゃあ、今までは、ひとりで?」 「……ん」  羞恥からか、きゅっと寄った眉根と、目尻に浮かぶ涙。  出会いがなければ、案外そういうものだ。五年も売り專をやっていると、初めての男になることも、初めての女になることもある。そして、たとえ金銭で成立した契約上の関係でも、誰かの初めてを味わうのはたまらない気持ちになるものだった。 「そっか、はじめてなんだ」  抑えきれない喜びと、それと同等かそれ以上の安堵が、声に滲んでしまったかもしれない。本番を思って、身体の芯がじりりと熱くなる。甘く後ろを掻き回されたハルカが、口をぱくぱくと開閉しながらハルトに縋りついた。
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