第三話「新人モデル」

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 泣いて真っ赤に染まった顔で、花衣は一砥と見つめ合った。  その瞳が訴えるものに、一砥は胸の奥がざわつくのを感じた。 「……嘘じゃない」  咄嗟に目を逸らしそうになりながら、一砥は真剣に訴えた。 「君の存在は、迷惑なんかじゃない。むしろ、いてくれないと困る……」 「本当に……?」 「本当だ」 「じゃあ……」  心の中の溜まったものを吐き出すように、花衣は言った。 「私のこと、名前で呼んで下さい」 「何?」  思いがけないその申し出に、一砥は思いきり戸惑った。 「苗字でなく、名前で呼んで下さい……」 「それは……」 「ダメですか」 「…………」  一瞬無言になった一砥は、しかし思い切って、「花衣」と彼女の名を呼んだ。  その言葉を口にした途端、彼の中で何かが生まれた。  それが何なのか分からないまま、一砥は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、「花衣」ともう一度その名を呼んだ。 「はい……」  念願叶い、花衣は嬉しそうに微笑んだ。  一砥に名前を呼ばれた瞬間、彼女の世界もその色を変えた。  愛とか恋とか、そんな言葉を認識するより前に、その心が強くストレートに訴えていた。 (私、この人が好きだ……。すごくすごく、好きなんだ……)     
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