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迷惑を掛けられて余計な仕事を増やされて、こんな娘に関わるんじゃなかったと後悔しているのだと……。
(きっとその内、私は家政婦をクビになる……)
花衣はそう信じて疑わなかった。
しかし事実は違った。
一砥の生活態度の改善は全て、忙しくなった花衣の負担を少しでも減らそうという、彼なりの思いやりから来た行動だった。
ただし二人の間に意志疎通が無かった為に、一砥のその気遣いを、花衣は自分を不要としているサインに受け取ってしまった。
身に覚えのないことで責められて、一砥はハーッと重い息を吐いた。
そんな彼の態度がまた、花衣の心を余計に追い詰めた。
「何を誤解しているのか知らないが……」
ポロポロと涙を流す花衣を見つめ、一砥は低い声で言った。
「俺は別に君に対して腹を立ててはいないし、面倒だとも思っていない。モデルの仕事はともかく、家政婦はずっと続けてもらいたいと思っている。君がデザイナーになりたいと願っているのなら、その手助けもしたいと思う」
「嘘……」
顔を覆ったまま、花衣は涙声で言った。
「絶対嘘です……」
「嘘じゃない」
苛々しながら、一砥は花衣の隣に移動し、その頭に手を置いた。
びっくりして花衣が顔を上げると、すぐ至近距離に一砥の顔があった。
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