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確かこの地域には再開発の波が押し寄せ、このオールド・ディックも立ち退きを余儀なくされて、もはや風前の灯火のはずだったが、久々に立ち寄ってみると、いつも通り営業していた。 「どうやら再開発と言っても、寂れたシャッター街の町おこし計画に変更になったようで。今残っている店に、すぐに出て行けという立ち退き話は一旦頓挫したようです」 「よかったな。いつまでもここに根を張って生息すればいいんだよ」 「そうしたいのは山々ですが、立ち退きの話は一旦延期になっただけのようで、いつ第ニ波がやって来るかは、まだわかりません」 「どうせ町おこしの話に急に傾き出したのは、復興のための補助金をたんまりせしめるためだろう。そうやって補助金だけふんだくって、ロクに何もしないつもりじゃないのか」 「補助金に釣られたってのは、まあそんなとこでしょう。いきなり手の平返しましたからね」 「誰かの都合ってやつだな。その誰かを選挙で叩き落としても、また新しい奴がその「誰か」になるってのを繰り返すわけだ」 「私には笑いごとじゃありませんよ」 「勿論、笑いごとじゃないよ。俺が笑ってるように聞こえたか?深刻極まる社会問題だ。このバーを存続させるためにもな」 バーテンは黙り込んで仕事に専念し、マティーニをカウンターに作って出した。 俺が自分で作ったヘンドリックスのドライなマティーニよりかなり美味い。     
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